2026年10月13日

エンジニア、バリでコーヒーを摘む

  

バリ島といえば、海とリゾートのイメージが強いと思います。

その北部の山あいでコーヒーが作られていることは、今回のツアーに参加するまで知りませんでした。

もともとライトアップコーヒーの豆を買っていて、ウェブサイトを見ていたときに見つけたのが「バリ島コーヒー農園ツアー2026」です。
ずっと気になっていたのですが、たまたま予定が合ったので思い切って参加しました。

空港から北部のキンタマーニまでの道のりを示したバリ島の地図
空港から北部の山あいへ

ツアーでお世話になったのは、キンタマーニのバトゥール村にある Eco Bike Coffee です。
農園主がカフェも営んでいて、ライトアップコーヒーと組んで品質の管理をしているそうです[1]。

バトゥール山を背にテーブルに置かれた、赤いカップのコーヒー
農園主のカフェで飲んだ一杯。奥はバトゥール山

※この記事の内容は、あくまで一参加者として見聞きしたことと、その感想です。

コーヒー豆ができるまで

農園の話の前に、コーヒー豆がどうできるのかのお話です。

コーヒー豆は実の種

コーヒー豆は、コーヒーの木になる実の種です。
実は最初は緑色で、熟すとさくらんぼのような赤色になります。
1つの実の中には、2粒の種が入っています。

枝に赤く熟したコーヒーの実と緑の実が混ざってなっている様子
赤い実と緑の実が、同じ枝になっている
手のひらにのせたコーヒーの生豆2粒
実から取り出した種。ぬるぬるしている。

コーヒーの木は高地で育ちます。
今回お邪魔した農園は、標高1,200〜1,300mにあります[1]。

摘んでから生豆になるまで

摘んだ実は、そのままでは焙煎できません。
皮や果肉を取り除いて、中の種を取り出す必要があります。
この工程を精製と呼びます。

今回見せてもらった流れは、ざっくり次のとおりです。

  1. 熟した実を摘む
  2. 水に浮かべて、密度の低い実や虫に食われた実を取り除く
  3. 果肉を取り除く。実のまま乾かす場合もある
  4. 乾燥させる
  5. 薄皮を取り除いて、生豆にする
水を張ったたらいにコーヒーの実を浮かべて選別している様子
水に浮かべて選別する
ビニールハウスの棚で乾燥中のコーヒーの実
ハウスの中で乾燥中の実
精製を終えたコーヒーの生豆
ここまで来て、やっと生豆

コーヒーの実を摘む仕事

1時間で摘めたのは約3kg

実を摘ませてもらったのは、Eco Bike Coffee が提携している農園です。
1つの農園を、5人くらいで摘んでいくそうです。

木は思っていたより大きく、枝をかき分けながら赤い実を探します。
しかも斜面がきつい。
足元を気にしながら手を伸ばすので、かなり体力を使いました。
摘んだ実を担いで運ぶのも、ひと苦労でした。

人が入っていないところには、実がびっしり密集していました。
ナメクジがいて、少し驚きました。

葉と枝が込み合った中になっているコーヒーの実
枝をかき分けながら、赤い実を探す

1時間摘んで、私が摘めたのは約3kgです。
農園主によると、ピッカー(実を摘む人)は1人で1日30kgほど摘むそうです。

斜面の中で、毎日30kgを摘む。
ほぼ1日働き詰めでないと届かない量だと思います。
とても大変な仕事だと感じました。

熟れた実だけを選んで摘む

摘むのは、赤く熟した実だけです。
農園主が糖度計で測ってくれた実の糖度は、18.3でした。
メロンよりも甘いくらいです。
同じ枝に熟した実と緑の実が混ざっているので、見て選びながら摘んでいきます。

ピッカーは1つの農園を摘み終えると別の農園へ移り、実が熟したころにまた戻ってくるそうです。

熟した実を人の目で選んで、人の手で摘む。
ここがコーヒー作りのボトルネック(全体の速さを決めてしまう、いちばん遅い工程)だと感じました。
コーヒー豆の値段が上がってしまうのも、仕方がないことだと思います。

ピッカーの給料

この農園では、ピッカーの給料は摘んだ量ではなく、1日いくらの日給で決まっていると聞きました。
量で払うと、熟していない実まで摘んでしまい、豆のグレードが落ちるからだそうです。
広さが限られた農園なので、量ではなく質で勝負する、という考え方です。

日給は、現地の通貨から円に換算すると、1日800〜1,000円ほどだそうです。

ピッカーの腕

ピッカーにも上手い下手があって、誰でもいいわけではないそうです。
バリ島の外から出稼ぎに来ている人もいて、技術が足りない人が入ると品質がそろわない、という話も聞きました。
摘むだけでも大変なのに、品質をそろえるところまで考えると、さらに大変だと思いました。

ピッカーごとのかごに入った、摘みたてのコーヒーの実
コーヒーチェリーを摘んだ後の様子

農園が抱える課題

精製の設備にかかるお金

大きな農園になるほど、実の選別や発酵の工程に機械を入れて、効率を高めていると聞きました。
発酵や乾燥をきちんと管理する機械もありますが、入れるにはお金がかかります。
小さな農園では、精製の工程も手作業が多いです。

小さなエンジンで動かす、コーヒーの精製用の機械
精製に使う機械。小さなエンジンで動かしていた

COE入賞のハードルの高さ

COE(カップ・オブ・エクセレンス)という、コーヒーの品評会があります。
入賞したロットはオンラインのオークションにかけられ、COE に選ばれるかどうかで、農園の収入は何倍も変わると聞きました。

一方で、入賞までのハードルはとても高いです。
今回お世話になった農園も、COE の入賞を目指して頑張っているところでした。

唐辛子への切り替え

コーヒーをやめて、唐辛子に切り替える農家が増えているそうです。
唐辛子は収穫量の予測が立てやすく、インドネシア国内での需要も大きいので、コーヒーより安定して稼げると聞きました。

気候変動

気候変動の影響で、コーヒーの栽培に向く標高は上がっていくと言われています。
2015年の研究では、インドネシアでアラビカ種の栽培に向く標高が、2050年代には500〜2,000mから800〜2,300mへ上がり、栽培に向く面積は21〜37%減ると予測されています[2]。
この先、大きな問題になりそうです。

コーヒーノミキクイムシ

農園主が一番困っていそうだったのが、コーヒーノミキクイムシ(英名:コーヒーベリーボーラー)という小さな虫です。
農園主によると、この虫が出ると、その一帯の農園が終わってしまうそうです。
調べてみると、対策をしなければ、収穫時に実の100%がやられることもあるそうです[3]。

こうだったら良くなりそうだなぁと思ったこと

ここからは、農園で見たことをもとに「こうだったら良くなるかも」と考えたことです。
調べてみると、すでに取り組みが進んでいるものもありました。

1. 熟れ具合の判別にカメラを導入するのはどうか

精製の途中で、台の上に実を広げて、色を見ながら手で選り分けていました。
色で判別できる品種なら、カメラで自動的に判別できそうだと思いました。

台の上に広げたコーヒーの実を、手で選り分けている様子
色を見ながら、手で選り分ける

実は、TechnoServe という団体が、写真から実の熟れ具合を「熟している/半熟/未熟/熟れすぎ」の4段階で判定する無料のAndroidアプリ「Cherie」を、すでに出していました[4]。

2. 収穫の一部に機械を導入するのはどうか

手摘みがボトルネックなら、そこを自動化できないかと考えました。
しかし、斜面は急で、木も大きい。
収穫をすべて機械に任せるのは、かなりの難題だと感じました。

調べてみると、コーヒーの実を選んで摘むロボットは、まだ研究の段階のようです。
インドでは、熟した実だけを摘む柔らかいロボットの研究が2020年から行われています[5]。

他の作物では、収穫の自動化が進んでいます。
愛媛大学では、急傾斜のかんきつ園でも使える摘果・収穫・運搬ロボットの開発計画が、2025年に農林水産省の認定を受けています[6]。

全部は難しくても、斜面で実を運ぶところなど、収穫の一部だけでも機械に任せられたら、ずいぶん楽になると思いました。

ロープで肩にかけた、摘んだコーヒーの実でいっぱいのかご
摘んだ実は、かごに入れて担いで運ぶ

とはいえ、機械を入れることで、今までピッカーとして食べていけた人が食べていけなくなるのは良くないと思います。
楽になる部分と、仕事がなくなる部分。
その両方を考えないといけないので、まだまだ問題は残っていそうです。

3. コーヒーノミキクイムシに早く気づく罠を導入するのはどうか

今の対策は、虫に入られた実を手で全部取り除いて焼却し、周りの農園にも知らせることだとされています[7]。
被害が広がる前に、早く気づけるかどうかが大事になりそうです。

この虫を捕まえる罠もあるようです。
アルコールなどの誘引剤で虫をおびき寄せる BROCAP という罠は、インドネシアで製造されています[8]。

罠に入った虫をカメラで判別して、農園の地図に表示する仕組みも提案されています[9]。
これなら、どこで虫が増えているかに早く気づけそうです。

罠そのものは使えそうですが、農園全体に置いて管理するとなると、お金も手間もかかりそうだと感じました。

参加してみて

自分で摘んだ豆を飲むことは、叶いませんでしたが、同じ農園で摘まれた豆のコーヒーを、農園主のカフェで飲むことができました。
自分で作った料理が美味しく感じるのと同じように、とても美味しく感じました。

農園主のカフェで出された、赤いカップに入ったコーヒー
同じ農園で摘まれた豆のコーヒー

実を摘んで、水に浮かべて、乾かして、また選別して。
スペシャルティコーヒーとして流通するまでの手順の多さと、途中で弾かれていく豆の多さを見ると、一杯を大切に飲まないといけないなと感じました。

今回泊まった場所や精製の施設は、建てるときにライトアップコーヒーが関わっていたそうです。
こんな機会をいただけたことに、とても感謝しています。

参考

[1] Cup of Excellence Farm Directory「I Gusti Agung djelantik, Eco Bike Coffee – Indonesia 2021」
https://farmdirectory.cupofexcellence.org/listing/i-gusti-agung-djelantik-eco-bike-coffee-indonesia-2021/

[2] Ovalle-Rivera et al. (2015) “Projected Shifts in Coffea arabica Suitability among Major Global Producing Regions Due to Climate Change”, PLOS ONE
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4397088/

[3] Aristizábal et al. (2017) “Integrated Pest Management of Coffee Berry Borer in Hawaii and Puerto Rico: Current Status and Prospects”, Insects
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5746806/

[4] TechnoServe「Coffee Cherry Quality App (Cherie)」
https://www.technoserve.org/tns-labs-old/coffee-cherry-quality-app-cherie/

[5] India Science and Technology「Design and Development of soft robotic system for selective harvesting of coffee cherries」
https://www.indiascienceandtechnology.gov.in/research/design-and-development-soft-robotic-system-selective-harvesting-coffee-cherries

[6] 農林水産省「国立大学法人 愛媛大学の開発供給実施計画の概要」(2025年5月認定)
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/attach/pdf/250530-6.pdf

[7] 神戸大学「コーヒーの病虫害」
https://www2.kobe-u.ac.jp/~kurodak/Coffee/Pests.html

[8] CIRAD「BROCAP®: coffee berry borer trap」
https://www.cirad.fr/en/work-with-us/cirad-innov-solutions/products-and-services/brocap

[9] Figueiredo et al. (2020) “A Proposed IoT Smart Trap using Computer Vision for Sustainable Pest Control in Coffee Culture”, arXiv
https://arxiv.org/abs/2004.04504